甲状腺疾患とは
『甲状腺は全身の健康にかかわる臓器です。
心身のあらゆる変化に早期発見のヒントが隠れています』
甲状腺疾患は、内分泌疾患(ホルモンの病気)のひとつです。ピンとこない人が多いかもしれませんが、実は多くの人がかかっている病気です。一般外来で受診した患者さまの約13%程度に、何らかの甲状腺疾患が見つかっているという報告もあります。年齢に関係なく発症し、その多くは女性の患者さまですが、男性にもみられます。
甲状腺とは、のどぼとけの下にある小さな内分泌臓器で、全身の新陳代謝や成長を促している甲状腺ホルモンをつくっている、いわば元気の源。健康であれば、甲状腺ホルモンの量は一定に保たれていますが、何らかの異常が起きると過剰につくられたり、もしくは量が不足して、全身の体調や精神面に悪い影響をおよぼします。症状は多岐にわたり、それらをまとめて甲状腺疾患といいます。
『ほかの病気と見分けがつきにくいため、
適切な検査と治療が重要です』
甲状腺疾患は、症状が比較的穏やかなことも多いですが、早期に(急激に)痛みや発熱が伴うこともあります。他の病気と似ている症状も多いことから、更年期障害やうつ病、認知症など、別の病気として治療を受けているケースもあります。その場合、原因である甲状腺の治療をしない限り、病気がよくなることは難しいでしょう。なかなか治らない症状がある方は、甲状腺疾患の可能性がないかどうか、専門のクリニックで調べてみるのもひとつの方法です。
甲状腺疾患は、早期に正しい診断を受けて治療をすれば、命にかかわることはほとんどありません。
最近では、一般の健康診断で甲状腺の腫れを指摘され、早めに専門クリニックを受診する方が多くなっています。さまざまな症状をきっかけに受診する方をはじめ、不妊や流産の原因になるともいわれていることから、若い女性の受診も増えています。気になることがあれば、気軽に相談にいらしてください。
甲状腺ホルモンの役割
甲状腺の病気の種類
『甲状腺疾患には、甲状腺の働きが悪くなる病気と
器質的に異常が生じる病気があります』
甲状腺の働きが悪くなる病気には、血液中の甲状腺ホルモンが過剰になる「甲状腺機能亢進症」と、ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」があります。器質的な病気には、腫れたり(甲状腺腫)、しこりができる病気があります。
これら見逃してはいけない甲状腺疾患にかかっている人は、70~100人に1人、治療する段階には至っていない「潜在性甲状腺機能低下症」を含めると、30~40人に1人といわれています。
男女別でみると、見逃してはいけない甲状腺疾患にかかっている男性は30~40人に1人、女性は70~100人に1人です。
また、潜在性も含めて甲状腺機能低下症に関しては、年齢とともに発症する割合が高くなっています。
甲状腺ホルモンの分泌量
バセドウ病
甲状腺機能亢進症の代表的な病気です。甲状腺ホルモンが過剰につくられるため、新陳代謝が異常に高まります。体が常にフル回転しているような状態なので、疲れやすくなります。体の変化としては、暑くないのにすぐ汗をかく、たくさん食べてもやせる、動悸や脈が速くなる、お腹がゆるくなる、手足が震えるといった症状があります。心の変化としては、テンションが高くなる、イライラしたり怒りっぽくなる、眠れない、といった症状があります。眼球が出る症状もよく知られていますが、そうなる場合とならない場合があります。
バセドウ病は、ストレスや妊娠・出産をきっかけに発症することも報告されています。発症は11~15歳で年齢とともに増えていき、高校生でピークを迎えます。20代、30代の若い患者さまが多いのも特徴です。
橋本病(慢性甲状腺炎)
甲状腺機能低下症の代表的な病気です。甲状腺に慢性的な炎症があり、腫れている状態ですが、ホルモンの量には異常がないこともあります。甲状腺ホルモンの量が低下してきた場合には、全身の代謝が悪くなり、元気がなくなります。体の変化としては、首が腫れている、太る、体が冷える、顔や手足がむくむ、皮膚が乾燥する、便秘、脈が遅くなる、疲れやすい、といった症状が出ます。心の変化としては、落ち込みやすく、うつ病のような状態になることも。症状が穏やかなうちは病気と気づかずに、適切な治療が遅れてしまうケースもあります。
無痛性甲状腺炎
橋本病にかかっている方や、バセドウ病にかかっていた方に多くみられる病気です。何らかの異常で甲状腺の細胞が破壊され、血液中に甲状腺ホルモンが漏れ出てしまい、一時的にホルモン量が増加します。その後、ホルモンが一時的に低下することもありますので経過観察は必要ですが、ほとんどの場合は自然に治ります。
亜急性甲状腺炎
ウイルスなどの炎症によって甲状腺組織が破壊されホルモンが血液中に漏れ出てしまうため、一時的にバセドウ病のような症状が出ます。また発熱や頚部(首)の痛みなどの症状をともないます。採血では炎症によってCRP値が上昇し、甲状腺機能の亢進を認めます。女性は男性よりもかかりやすく、30歳代、40歳代の女性に圧倒的に多いようです。治療としては副腎皮質ホルモン(ステロイド)がよく効きますが、発熱や痛みなどが改善していることを診察で確認し、ゆっくり減量していくことがぶり返さない(再燃させない)上で大切です。
プランマー病
甲状腺機能亢進症のひとつです。甲状腺にできた腫瘍が、甲状腺ホルモンを過剰につくり、バセドウ病のような症状が出ます。
甲状腺嚢胞
甲状腺に、液体のたまった袋状のものができ、大きくなると硬いしこりとなって、指で触れるとわかるくらいになります。痛みはほとんどなく、まれに痛みが出ても2、3日でおさまります。良性であることが多いですが、がんにともなう嚢胞もあります。
甲状腺乳頭がん
甲状腺のがんのなかで、一番多くみられるタイプです。他のがんと比べると手術後の回復も良好であることが多いです。症状としては、甲状腺のしこりやリンパ節の腫れが挙げられますが、痛みはほとんどありません。頻度は低いものの、家族性の甲状腺乳頭がんになる場合もありますので、ご家族に手術をされた方がいれば、甲状腺の専門クリニックで甲状腺の検査を受けておくと安心です。
健康診断でわかること
『健康診断をきっかけに
甲状腺の異常に気づけることも』
仕事や家事などの忙しさに追われて、ご自身の健康に無関心になってはいないでしょうか?会社や自治体などで実施される年に1度の健康診断は、ご自身の健康状態に関心を向けるいい機会です。
近年は、甲状腺疾患への関心が高くなり、一般的な健康診断においても甲状腺の異常が見つかるケースが多くなりました。健診をきっかけに甲状腺専門クリニックを受診する人は多くなっており、当クリニックでも、早い段階で病気を発見できた方が多くいらっしゃいます。
甲状腺ホルモンの検査は、一般の健康診断の血液検査には含まれていませんので、専門の医療機関にて検査をする必要があります。
自覚症状がなくても「甲状腺が腫れている」など指摘を受けたら放置せず、1日も早く専門のクリニックを受診することをおすすめします。
甲状腺ホルモンの検査項目
TSH | 脳下垂体の前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモン。 基準値の目安は0.20~4.50μIU/ml。 TSHの数値に異常がある場合、甲状腺疾患が疑われるので専門医の受診をおすすめいたします。 |
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FT4(遊離サイロキシン) | 甲状腺ホルモン2種類のうちのひとつ。基準値の目安は0.8~1.6ng/dL。TSHの数値に異常がある場合、甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症などの甲状腺の機能異常が疑われます。 |
FT3(遊離トリヨードサイロニン) | TSH、FT4と合わせて総合的な判断が必要となります。 |
当院の治療方針
『ほかの病気と区別がつきにくい甲状腺疾患を
適切な検査で正確に診断します』
ひとことで甲状腺疾患といっても、患者さまによって症状はさまざまです。ほかの病気と区別がつきにくかったり、症状が穏やかであったりもするため、症状を正確に見極めることが大切です。
当クリニックでは、問診で患者さまの自覚症状や家族歴などを伺い、視診・触診で甲状腺の腫れやしこりの大きさ、かたさなど状態を把握した上で超音波エコーや採血を行い、正確な診断に努めています。
また、同じ病気でも、薬による治療のほか、アイソトープ治療(放射線ヨード治療)、手術治療など複数の治療法があることもあります。当クリニックでは、そうした選択肢についても、薬による治療の効果や期間などを考えて、選択肢のひとつとして説明いたします。すでに治療を受けているけれど、なかなか改善しない方、結婚や出産を考えている方など、患者さまの悩みやライフプランをお伺いしながら、患者さまに適した方法を選択していきますので、どんなことでも相談していただければと思います。
また、さらに精密な検査が必要な場合や手術の必要があると診断した場合は、連携している医療機関への紹介を行っております。
甲状腺超音波(エコー)検査
甲状腺にできる腫瘍
『甲状腺にできる腫瘍はほとんどが良性です。
早期の発見・治療が安心につながります』
甲状腺の腫瘍とは、甲状腺にできたしこり状のものです。発症の原因に家族歴が関係するともいわれていますが、はっきりとはわかっていません。
腫瘍やしこりというと、がんのイメージがあるかもしれませんが、甲状腺にできる腫瘍は良性のものがほとんどです。
良性腫瘍は腺腫といい、甲状腺の左右どちらかにしこりができます。ほかにも、大小のしこりが複数できる腺腫様甲状腺種、甲状腺に液体のたまった袋状のものができる甲状腺嚢胞などがあります。
悪性の腫瘍は、その多くががんです。しかし、甲状腺のがんは80~90%が乳頭がんという種類で、他のがんと比べると進行がおとなしいのが特徴です。まれに肺や骨に転移することもありますが、適切な治療を受ければ根治しやすいがんといえます。がん以外の悪性腫瘍には、まれですが、甲状腺リンパ腫があります。
甲状腺に腫瘍がある場合、良性、悪性の診断が重要です。検査の方法としては、主に視診・触診、超音波検査(エコー)、穿刺吸引細胞診(細い針で細胞を吸引します)があり、腫瘍の大きさや形、性質を正確に調べます。
検査の結果、良性であれば経過観察とします。しこりが大きい・数が多い場合は、手術で切除することもあります。術後に、甲状腺ホルモンや血清カルシウムの値が低下した際は、内服薬で補充します。
一方、悪性の場合、甲状腺のがんには抗がん剤や放射線治療の効果が出にくいため、手術が主流です。
セルフチェック
甲状腺疾患は他の病気と似ている症状も多いことから、病気と気づかない患者さんも多くいらっしゃいます。簡単なセルフチェックをしてみましょう。
ひとつでも気になる項目があれば、一度専門の医療機関を受診することをおすすめします。
- コレステロール値が高い
- 多汗・暑がり
- イライラしやすくなった
- のどぼとけの下のあたりが腫れてきた
- 体が冷え、寒がりになった
- 便秘をしやすくなった
- よく食べているのに痩せてきた
- 食欲がないのに太ってきた
- むくみが気になる
- 眼球が突出してきた
- 体がだるく、日中眠気がある
- 手指が細かくふるえる